VTR / VTR-F
車両概要
新車レビューの多くは、メーカーを問わず、メーカー主導の紋切型の商品説明が多いように思うが、新しい靴の履き心地と、足に馴染んだ靴の履き心地が違うように、バイク屋がコンディションを整えて、心地良く楽しめる道具としての観点で捉えてみると、少し違ってくるように思う。
バイク屋は、バイクのコンディションを整えたうえで、ライダーとバイクを上手く馴染ませて、上手く使いこなすためのアドバイスや提案などにより、素適なバイクライフが始まると、NWJCでは考えている。
新車状態、所謂メーカー出荷の工業製品は、慣らしの終った車両に比べると、エンジンの回り方も重く、シフトタッチも渋く、サスペンションも硬く感じて、車両全体の動きに渋さがあり、本来の性能は発揮されていない。
丁寧な慣らし運転で全体にアタリをつけた後に、バイク屋が本来の良さを発揮できるよう、点検やメンテナンスによりコンディションを整えた後に、其々のバイクが持つ本来の良さや面白みが顔をのぞかせ、距離を追うごとにその良さが輝き始め、価値ある道具となってくるのだが、メンテナンスを施すことも無く 『こんなもんです』 という紋切型の対応では、本来の良さを知る事は出来ない。
そこで今回のレビューは、7,000Kmほど走行したVTR-Fの各部をチェックした後に、メンテナンスを施した試乗車についてお伝えしたいと思う。
ライダー目線とメカニックの実体験から
HONDA車の場合、新車状態でエンジン等をチェックしてみると、大半が基準値内に収まっていて、組み立て精度の高さは、他メーカーに比べると群を抜いている。特に外車の組み立て精度とは雲泥の差がある。しかし、5,000~10,000Kmを走行してくると、メーカー、車種を問わずバルブクリアランス(自動調整は除く)などは、許容範囲外となる場合が多く、組み立て精度の高いHONDA車でも例外ではない。
Gold Wing1800のように400Kgを超える様な巨体になると、コンディションが整っていない場合には、低速時はとても重く感じて、半クラッチを多用するような乗り方となり、一般道をのんびりと走らせる事より、高速道等を利用するツーリングに終始してしまう傾向となり、Gold Wing1800の本来の良さを知る事は出来ない。
カブ110のような小排気量となると、コンディションが悪い場合、アクセルを大きく開けてもスムーズに流れに乗ることも出来ず、ゆとりも無くつまらない乗り物となってしまうため、本来の良さをツーリングなどで楽しむことには無理がある。
エンジンコンディションは、バイクの乗り味に大きく影響しているため、コンディションが整っていない場合は、本来の良さを知る事が出来ない。コンディションが悪く、乗り難い車両をライテクでカバーするやり方もあるようだが、それは、本来の性能を発揮させてからの事だと思う。
VTR-Fのエンジンチェック
NWJC恒例の試乗車エンジンチェックをVTR-Fに実施した結果は、7,000Km走行したエンジンのエキゾースト側のバルブクリアランスは、すべて許容範囲最大値で、インレット側はすべて基準値に収まっていた。エキゾースト側のクリアランスを基準値に調整してエンジンの調整を終了した。
調整後の走りは、極低速から力強く、アイドリング回転1,500rpm付近を5速25Kmで、平坦路であればギクシャクすることも無く、Vツインらしくドコドコと動いている。これはインジェクション仕様となった恩恵のようです。
常用できる回転域は、2,000rpmからでも充分使うことが出来る程、Vツインエンジンには粘りがあり、とても使いやすく、高回転域まで心地よく吹き上がり、市街地では5速のまま、アクセル操作だけで流れに乗って走ることが出来て、とても使いやすくなった。
VTR-Fの足廻り
最近の車両は、初心者をターゲットにしているのか、柔らかく、低速時には曲がり易い設定になっているように感じる。しかし、少し慣れてペースが上がってくると、様子が変わって、思いもよらない結果を招くこともあるようだ。
そのような場合、バイク屋としては、まずエンジンコンディションを整えたうえで、足回りのセッテイングや仕様を変更するなど、心地よく走れることを提案することとなるが、不具合を具体的に実体験していないとアドバイスも出来ないのでは・・・・。
車両に慣れて少し速度が上がってくると前後のバランスが悪く、フロントは曲がって行く感じがするが、リアがついてこない感じの車両や、NC700Xの場合少しペースが上がって、フロントブレーキを少し引きずりながらコーナーへアプローチした時、後ろから押されるような感じで、フロントは曲がって行く感じが無く、不具合に思う事があったが、少し対策を施せば心地好い走りを手に入れることが出来る。
VTR-Fの場合、7,000Kmも走行すると、リアサスはとても柔らかくなり、加速時には後ろばかり沈み込み、前へ出ていく感じがしない。また、コーナーへの進入時もフワフワした感じで安定感が無く、つかみどころのない感じだったが、エンジンコンディションを整えた後、リアサスのプリロードを変更することにより、フワフワ感も解消してとても乗り易くなった。
タイヤの溝はまだ十分に残っていたが、純正装着のBSタイヤからピレリータイヤ スポーツデーモンに変更したことと、リアサスのプリロードを変更した相乗効果もあり、接地感と安定感が増して乗り易くなった。
ツーリングなどに出掛けた時、初めて走る道では、コーナーへの進入時にはその先を探りながらのコーナーリングとなるが、安定感と安心感が増して、心地よく走り続ける事が出来る仕様に仕上がって来た。
速さより心地好さで愉しむために
VTR-Fでロングツーリングを楽しむために
心地よい走りを生み出しているVツインエンジンを活かしてロングツーリングを楽しむために、積載性は必須となるためリアーキャリアや、グリップヒーターなど、心地よく楽しむためにもう少し手を加えて、ロングツーリングでVTR-Fの良さを遺憾なく発揮できるツーリング仕様に仕上げるために、色々と試行錯誤してツーリングライダーの目線でVTR-Fを楽しんでみたいと思う。
ミラーの取り付け位置は、VTR-FもCBR250R同様に後方確認をすると腕が写り込んで見にくいため、アダプターを使ってミラーの位置を変更すれば、後方の視界を広範囲で確保することが出来るようになる。
数年前にCBR250Rに乗って、北海道、九州とツーリングを楽しんだが、エンジンコンディションを整えることと、フロントサスに若干プリロードを掛けた程度で、積載性を高めるキャリアやグリップヒーター等を装備して、250クラスのバイクでは久しぶりのロングツーリングを楽しんで来たが、Bigバイクとは一味違う250ccクラスならではの心地よいツーリングを楽しむ事が出来た。
VTR-FやCBR250Rなど、最新の250ccクラスのバイクは、インジェクション化により、排気量による力不足やストレスを感じることも無く、軽量コンパクトだからこそ、気負うことなく、Bigバイクとは一味違う心地良さで、ロングツーリングも楽しめることをツーリングライダーとしての実体験からお伝えしておく。
VT250世代へ
VT250Fが発売された当時、VT250を乗っていた10代から20代の多くの若者は、リターンライダーも含みバイクを乗り続けている人が多い。R1150 GSを売却してカナダへ赴任しているS/T君、トランザルフに乗るM/G君達は、50代前後の歳となり、良き親父になっている。NWJC南店の明君も当時VT250のⅡ型に乗っていた。
当時は、VTかRZか、何馬力だから・・・というスペックが全てのような一面もあり、大型バイクは、外車か逆車のフルパワーが持てはやされた時代だったように思う。大型免許が解禁となり、ブランドや大きい事は良い事だ、というノリで外車や逆車などの大型バイクのブームが訪れたが、昨今少し流れが変わってきたように思う。
VT250Fが発売されて30年が経過した今、VTR-Fはインジェクション化され、CB1100やNC700シリーズなど、スペックによるパワーや速さを求めた走りよりも体感性能を重視して、日本の道を心地良く走り続けて楽しめる車両が主流になり始めたように思う。
それは、バイクを心地よく楽しむ為に、日本の道を知り尽くした、HONDAからの提案であるようにも思う。
当時のVT250Fに乗っていた若者たちに、最新技術によって進化したMade In JapanのVTR-Fを試乗していただいて、当時のVTを思い出して若かりし頃を振り返り、これからのバイクライフについて語り合うことが出来ればと思います。