バイク屋の備忘録

CRF250TMとSL230TMで定番の西へ

SL230TMで定番の西を楽しんだ10月中旬から寒さが日に日に増して、おっさんライダーには厳しい季節がやってきた。これからの季節を楽しむための防寒は、バイクとおっさんの両方で対策して凌ぎたいところである。

カブ110Compでのキャンプツーリング前のことで寒さが緩んだ10月末、SL230TMとCRF250TMの2台で再び定番の西へ向かい、積載状態でも気負うことなく自由気ままにフィールドを拡げてバイク旅を楽しんできた。

今回走らせたCRF250TMは走行距離が1,000Kmにも満たない初期のモデルをNWJCツーリングマスターへと深化させて足回り等の問題を対策した仕様を積載状態で走らせ、各部のチェックを兼ねてSL230TMを駆るS・Oさんと共に定番の西を駆けてきた。

CRF250Lをバイク屋自らの実体験に基づいて、愛着を持てる価値あるバイクへと深化させて良き相棒として、その良さを存分に発揮させたNWJCツーリングマスターとして提案したいと考えている。

CRF250LからCRF250NWJCツーリングマスターへ

CRF250Lを深化させた旅仕様のNWJCツーリングマスター(以下TM仕様)の1号車はいつものメンバーの土岐さんが乗っているが、足回りに違和感があり距離はあまり延びていない。

コストダウン効果か、乗らなくてもリアサスペンションがヘタリ、サイドスタンドを短くしなければ安定しないほど車体が起き上がってしまう出来の悪いサスに関しては、YZやCRをはじめME06型のXRに長年乗ってきたから比べるまでも無く、CRFのサスが劣っていることは初めから重々承知の上で始めたことである。

しかし、ダンパーの出来の悪さは我慢できないとのことで、特にリバウンド側はオイルが入っていないのではないかと思えるほどで、「こんな足回りで林道を走れるのは凄腕のライダーばかりだろうな。」と、モトクロスではYZやCRで、エンデューロではXRを楽しんできた経験豊富な土岐さんからの声であった。

コストダウンによりその出来が悪いCRF250Lを「速さより心地よさ」「何かに特化する事の無い曖昧さ」「和洋折衷のような大らかさ」をコンセプトとしたコンパクトツアラーのNWJCツーリングマスターへと深化させる事が急速に動き始めたようである。

情緒的価値観と機能的価値

CRF250Lで不評の足回りと同様にサスのヘタリが早いと感じたのは、速さより心地よさのNWJC-TM仕様にも似たイメージが売りのNC700Xが最初であった。

ある距離を過ぎると突然曲がらなくなり乗り味が変わることをバイク屋として初めて経験して、バイクに乗りだしてから楽しめることをモットーとしているバイク屋としてはNWJCオリジナルのWPサスで多くのNC700(750)Xの足回りを改善してきた経緯がある。

NC700Xのリアサスはプリロード調整の必要が無いという優れもの?だったが、タンデムや積載状態ではヘッドライトがとんでもなく上を照らすような足回りで、ツルツルのシートでサイドパニアやトップケースが装備できてタンデムでもバイク旅を楽しめるイメージであったが、メーカー出荷のSTDでは積載状態での操縦性や安定性に違和感があり、ツアラーとして心地よい走りは楽しめず、工業製品としては完成品でも耐久性の無い足回り等は、素敵なバイクライフの為の道具としては未熟であった。

NC700X発売時からグローバルスタンダードという言葉が使われ始めて、今思えばグローバルスタンダードという限界に向けてのコストダウンが始まったように感じている。

売る事が最終目的で違和感などには「こんなものです」という対応が多いようだが、バイク屋NWJCではバイクに乗りだしてから楽しめる素敵なバイクライフの為の実体験に基づいた改善や提案は必然であると考えている。

しかし、昨今のコストダウンが進んだバイクでは、調整範囲+αのことだけでは限度があることを実感している今日この頃である。

ME06型やMD30型などのXR250を楽しんできた経験豊富なライダー諸兄は、水冷化されて大柄で重いCRF250を駆って再び林道へ入ろうとは思わないようである。

歳を重ねたことも一因ではあるが、旧いME06型やMD30型とは比べ物にならないほど劣っている足回りや、大柄で重く乗りにくいことを実感しているベテランライダーが多いのも周知の事実である。

しかし、初心者では経験が浅く比較する事もできず違和感とは思わず、こんなものと思い込む場合が多いようだが、手放して軽量なセロー250等への乗り換えをするライダーも多かったようで、売るがための提灯記事では良いことばかりを並べて何ら問題が無いように取り繕っているが、時間と共に頭隠して尻隠さずの状況が浮かび上がるようで何とも滑稽である。

CRF250LをTM仕様へと深化させる過程で問題点への対策が遅れたことは蔑ろにしたつもりはまったく無く、足回りに不具合がある事は最初から分かっていて始めたことである。

CRF250LをNWJC-TM仕様へと深化させることより、先行していたCB250RのTM仕様を優先していたが、CB250Rが入荷しない状況となり、同時進行させる事が出来なかったのが現実である。

CB250Rはオーダーを入れることすらできない状況が続き、NC750XからCB250TM仕様への代替のお客さんが何人かお見えだったが、納得を得ることができる説明をする事もできず信頼を失い、他メーカーへの乗り換えとなるようなことがいくつかあったのが実情である。

旧くからのHondaユーザーよりもこれからバイクを楽しみたい新規ユーザーが優先なのか、半導体不足だけなのか、何らかの意図があってのことかよく判らないことばかりである。

CRF250Lを心地よく楽しむために走行距離が少ないCRF250Lが入庫したことで、バイク屋のおっさんライダー自らが「乗り出してから楽しめる」NWJC-TM仕様へと更に深化させる事を自らの実体験により具体化できるのは嬉しい限りである。

ありきたりでよく使われる「オトナのバイク」という表現があるが、歳を重ねた年齢だけのオトナか、歳は若くても経験豊富な大人なのか。

存在感、カッコいい、高級感、レトロ感、新製品などの情緒的価値観と、大きく重く使い難いことや、チョイ乗りでもお尻が痛くなるシート、耐久性の無い足回りなど、機能的価値とのバランスが悪いバイクが多い事は、経験豊富な大人のライダー達が「乗りたいバイクが無い」という言葉で如実に表現されているように思う次第である。

CRF250LをCRF250TMへと深化させて

積載性に関してキャリアを大型化するだけではある速度域を超えるとフレームがよじれるような動きが出て心地よい走りは楽しめないから要注意である。

キャンプ等の装備を含むと70~100ℓ以上の容量となるフル積載でも何ら問題が無いTM仕様は、問題の足回りに関して強化スプリングとダンパーのセッティングを変更して様子を見るということで、積載状態での高速安定性とワインディングでの操縦性と安定性もチェックすることとした。

各部のチェックのため定番の西へ向かう準備をしていたところへSL230TMに乗ったS・Oさんが来店されて、今度の日月は連休だからおっさんライダーの定番ルートを一緒に走りたいとの事。

S・OさんのSL230は5万キロを越えて走行距離が延びているが、シリンダー上部をO/Hしたことで力強い走りを得て、10月の末に1日で900Km弱を積載状態のSL230TMで楽しんできたおっさんライダーの備忘録に刺激されたのか、長距離を走りSL230TMの旅バイクとしてのポテンシャルを試したいと思っていたとの事。

バイクでの西方面はCB400SSを夜間の高速で走らせ皆と合流した5月のツーリング以来で、一般道をメインに走り続けるのは初めてのことだから、愚息よりも歳が若いS・Oさんに長距離を気負うことなく走り続けて楽しめるバイク旅の面白さを伝えてあげることができればと思った次第である。

おっさんライダーは早朝の朝焼けを見ながら走り始めるのが好きだから、S・Oさんとは長良川の堤防で合流することにした。

そこから羽島ICより関ケ原ICの二区間だけを走り、まずは積載状態での高速安定性をチェックすると、100Km巡行でギャップに乗っても振られることもなく安定感がある走りを確認できた。

関ケ原からは前回とほぼ同じルートで西へ向けて走り始めて、滋賀、福井、京都、兵庫と走り抜け途中で脇道へ逸れて朝食をとり、一山超えて鳥取へと入り、再び峠道のワインディングを楽しみ岡山の蒜山へ到着。

日曜日のためか人出が多く早々に走り始めて落ち葉がいっぱいの細い峠道を抜けて新見から広島へ入り日没前に定ポイントの朱塗りの橋の上に到着して、その後夕焼けを眺め予定のB/Hへ到着。

速くも遅くも無い淡々としたペースでS・Oさんを引っ張りながら、400Km500Kmと距離が伸びていくうちに、一定のペースで走る中で疲れることなく走り続けるペース配分が何となく分かり始めたようで、少し離れても淡々としたマイペースで同じように走り続けることができるようになってきた。

CRF250TMの足回りも慣らしが終わりゴツゴツ感も消えてしなやかな動きで、ワインディングも積載を気にすることも無く軽快に駆け抜けて、エンジンは走り続けることで低速から滑らかに吹き上がり全体のバランスが整っていくのが何とも心地よく、NWJCツーリングマスターとしての良さを存分に発揮しはじめていることを実感した次第である。

帰路も速さより心地よさで楽しむ

霧が深い早朝から走り始めてスクリーンによる防風雨効果を実感して途中で日の出を眺め、日本海を目指し北へ向けてのワインディングを軽快に駆け抜け、朝食は海沿いでそれぞれに準備して、大雑把な帰り道の打ち合わせも終え、S・Oさんには脇道へ逸れて日本神話とその地を少し紹介することにした。

新旧に関わらず持て余すことのない車格と使いこなせる排気量でGoodコンディションであれば、脇道へ入り込み道草を楽しむ余裕が生まれて、一日中走り続けるバイク旅の面白さを実感されたようである。

また、人の感性と機械式ならではの違和感のない人車一体はアナログの良さであり、SL230TMの懐の深さを改めて実感された事と思う。

バイクはとても危険な乗り物だから安全はバイクの機能を高めるだけでは無理なことであり、ライダーのスキルアップに勝るものはないことも伝えておきたいことである。

この記事の車輌・パッケージ(仕様が異なる場合があります)

お問い合わせ