バイク屋の備忘録

トライアンフ空冷スラクストン900が絶不調

三重の伊賀よりトライアンフ空冷スラクストン900に乗られているKさんが来店されました。

曲がらない、止まらない、走らない、とにかく乗りにくく何とかならないだろうかと相談がありました。

以前乗っていたリッターバイクと比べてもその乗りにくさは最悪で、トライアンフの空冷モダンクラシックは乗りにくいと周りでは皆が敬遠するバイクらしく、スラクストンを買った大手量販店に相談すると、よく耳にする「こんなものです」と言う対応と「トライアンフの空冷モダンクラシックは乗りにくいですよ」と云われたそうですが、何とか楽しめないものかと悩まれていたようです。

トライアンフ空冷モダンクラシックを楽しむために

乗りにくいと感じていることを何とか対策すれば楽しめるのではないかと、インターネット等で検索してみると、問題点を具体的なメンテナンスにより対策して楽しめる仕様を提供している当店の記事にたどり着かれたようで、Kさんの空冷スラクストン900をGoodコンディションに整えるメンテナンスの始まりとなった。

実車の状態を確認してからどのような手順でメンテナンスをするか打ち合わせをすることになり、奥様と共に来店されてご夫婦でバイクライフを楽しまれていることを伺い、素敵なバイクライフのための提案やお手伝いができればと思った次第です。

奥様から話を伺うと、ワインディングになると「どうしたんやろか?」と思うほど、私の乗るエストレヤ250でも追い越せそうなほど旦那さんのスラクストンのペースがガクッと落ちる事もあり、以前乗っていたバイクと比べて乗りにくい事が見て取れるとの事でした。

また、周りのバイク仲間からは、トライアンフ空冷モダンクラシックは乗りにくいから皆が敬遠するバイクでもあるとか、買ったお店や専門店から「こんなものです」とか「これが気にいって買われたんですよね」と云われると為す術が無いのが実情であることなど、まさに台数至上主義や成果主義による使い捨てと消費が主流の日本の2輪業界の実態が浮かび上がってくるような話をお聞きしました。

空冷スラクストン900に関しては、以前使っていたデモ車をはじめツーリング仲間のY.Sさんから、カフェスタイルでも多用途にバイク旅も楽しみたいとの要望があり、サイドパニアケースなどを装備して積載力を高めたスラクストンの旅仕様を企画して、北海道や東北などをキャンプツーリングで共に楽しみ空冷スラクストン900の懐の深さを実感しています。

バイク屋自らの実体験も含みNWJC独自のメンテナンスやモディファイにより素敵なバイクライフを応援できればと思います。

Kさんの空冷スラクストンの状態を確認

ボンネビルとはエンジンフィーリングも違いブレーキローターも大径化してホイールはスチールからアルミで軽量化され19から18インチへと、長距離を走るバイク旅よりもワインディングを軽快に駆け抜けるスポーツライクな楽しみ方には最適な空冷スラクストン900は、旧き良き時代のバイクらしく人車一体となったその心地良さは格別だから、Kさんにもその良さを体感して頂きたいと思います。

※走らない?

本来エンジンコンディションが整っていると1,500回転付近からスルスルと心地よい加速を楽しめるのですが、残念ながら4,000回転以下はトルクも細く、使いにくい絶不調なエンジンコンディションでした。

エンジン回転に車速が伴わなく加速フィーリングも悪く、スロットルに連動しないエンジンではワインディングなどでは心地よく操ることが出来ない状態となりますが、Kさんのスラクストンを上手く楽しく操りたい、そんな熱い思いにはNWJC独自のメンテナンスやモディファイにてお応えしたいと思った次第です。

まずはエンジンのメンテナンスでは恒例のバルブクリアランスの調整から始めます。8バルブすべてが最大値を大幅に超えた基準値外ですから、900の排気量とは思えない低速域でついつい半クラッチを使いたくなるようなトルク感では乗りにくいです。

バルブクリアランスの調整を終えてキャブレターの清掃と同調を整えて、エンジンコンディションを整えることでトルク感は強力で、エンジンレスポンスは別物となり回転を上げるとモリモリとパワーが湧き出るような空冷スラクストンの良さを発揮するエンジンコンディションが整いました。

※曲がらない?

実車の足回りはオーリンズのサスペンションに変更してありましたがとにかく曲がりにくいとのこと。エンジンコンディションは最優先でサスペンションは前後のバランスを整える事が不可欠ですが、ボルトオンしただけでのサスではその良さは発揮されていないのが実情です。また、アライメントも酷い状態でこれでは上手く曲がれないと思う事ばかり。

トライアンフ空冷モダンクラシックシリーズは、コーナーリング中のある速度域やバンク角では接地感が希薄になるところがあるが、それはサスペンション等の変更やライテクではカバー出来ないことであり、メーカー出荷のSTDでは根本的な原因を対策することには限界があり仕様変更することで心地よい走りを実感出来るのでメンテナンスによりそれを具体化することに。

サスペンションは前後のバランスを整え、足回りの各部をチェックして整えることで空冷スラクストンの魅力でもあるエンジンと連動したコーナーリングの良さを存分に発揮できる仕様へとトータルバランスが整いました。

※止まらない?

フロントブレーキを掛けるとレバーに小さな振動が伝わってくるとのことで、転倒か何かによるローターの歪が原因のようです。ブレーキキャリパーやマスターも当時のままのようで少し引きずりもあり、前後共にフルメンテナンスを提案。

エンジンコンディションをはじめ足回りにブレーキと心地よく走るためのすべてに多くの問題を抱えた空冷スラクストンは経年劣化も含み最悪のコンディションでしたが、同じバイクとは思えない心地よい走りを提供するためにブレーキのメンテナンスにより、空冷スラクストンならではの心地よい走りを楽しむために必要な準備が整いました。もちろん更なるバージョンUPも可能です。

※ファイナルレシオを変更

ギア比はF18T:R39Tとなっていたが、少しロングすぎてワインディングでは使いにくくその良さは発揮できないため、F18:R41Tに変更すると更に使いやすくなることを伝え変更する予定でしたが、チェーン交換の時にR39Tのギアに合わせた長さとなっていたため、F18T:R41Tに近いギア比F17T:R39Tに変更しました。

エンジンコンディションが整ったことで低回転からツインカム4バルブらしく回転があがるとモリモリと力強さを発揮する加速感が心地よく、思うままの走りを楽しめる扱いやすいギア比への変更を実感されたようです。

メンテナンス後の空冷スラクストンをKさんが試乗

スラクストンのメンテナンスが完了して、Kさんが奥様と共に来店されました。

Kさんは早々に試乗のため出かけられ、中々帰ってこられないことで奥様から「どこまで行ったんやろか?」「直ったんやろか?」と、周りから乗りにくいと云われていた事も含めてどのように変わったのか半信半疑でKさんが帰ってこられるのを待たれていました。

Kさんが戻って来られて、エンジン音が変わりトルクが太く加速が良くなったことなど、エンジン特性の変化や、コーナーリング時のキッカケが掴みやすく、とにかく乗りやすく曲がりやすくなったとのこと。

バルブクリアランスを調整してガソリンの充填効率がUPしたことによりヒート気味のエンジンも油温がかなり下がり、ガソリンでエンジンが冷やされていることをオイルフィラーCapに取り付けた油温計で確認できたとのこと。
ブレーキング時のレバーへの振動が消えたことでコーナーリングへのアプローチが楽になり、すべてに良い方向へ変化したことなど満面の笑みで話されていたのは何よりです。

それを聞かれていた奥様から「ヘェ~治るんや!」「空冷のトライアンフが乗りにくいなんてのは根も葉もないうわさで、風評被害なんやね?」とスラクストンのコンディションが整ったことを喜ばれていました。

あとがき

トライアンフ最後の空冷スラクストン900が持つその良さを実感された事は何よりでした。新しいモノがすべてに良いわけではなく、空冷スラクストン900の良さを如何に引き出すことができるか、エンジンから足回りにいたるまで多岐にわたり絶不調でしたが、Goodコンディションとなった空冷スラクストン900のカフェスタイルならではの人車一体の操る楽しさは格別で、素敵なバイクライフを応援できる事は嬉しい限りです。

NWJC独自のメンテナンスやモディファイによりコンディションを整えると、トライアンフ空冷モダンクラシックならではの体感フィーリングの良さは五感で操る楽しさを実感できる事であり、時代の流行り廃りに流されること無く、昔ながらの素朴な乗り味で気負うことも無く自由気ままにフィールドを拡げて素敵なバイクライフを満喫できる良き相棒となることでしょう。

トライアンフ空冷モダンクラシックのメーカー出荷時のSTDでは、走らない、曲がらない、止まらない、まさにモダンクラシックなデザインのファッションバイクだったが、発売当時のレビューは売るが為に良いことと慣れれば楽しめるようなことを並べ立てている提灯記事ばかりで、問題や違和感に触れた記事は見る限り皆無で、台数至上主義や成果主義のための使い捨てや消費が主流の日本の2輪業界ではないか。

乗り始めてからの理想としたイメージと現実のギャップは、消耗品交換やボルトオンパーツの組み付け程度では埋める事が出来ないほどの隔たりがあるのが大半であり、提灯記事により様々な問題は慣れれば何とかなることであり、ボルトオンパーツに依存することで解決できると思い込む傾向は何時の時代も変わりないことです。

バイク屋自らの実体験に基づいて培ったNWJC独自のメンテナンスやモディファイにより、トライアンフ最後の空冷モダンクラシックを1台でも多くGoodコンディションに整えて、五感でその良さを実感していただきたいと常々思う次第です。何なりとご相談ください。

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