バイク屋の備忘録

ボンネビルT100メンテナンス依頼 ─金沢・Yさん

バイクを楽しむには最適な季節が過ぎてバイクを冬眠させるライダーが急に増えていますが、寒さが日に日に厳しくなり、コロナ禍に関しても新たな脅威が広がる気配となり重苦しい空気で今年もあと半月あまりとなりました。

10月中旬にボンネビルT100で来シーズンをより楽しむためのメンテナンスを計画的進めているYさんから問い合わせがあり、メンテナンス依頼を受けました。

心地よい走りを楽しむためにバイク屋の経験に基づいて、普段使いは勿論の事NWJC2014仕様からタンデム旅仕様まで、速さより心地よさをコンセプトとして、用途に合わせたメンテナンスやモデイファイなどいくつかのパターンをYさんに提案しました。

Yさんの空冷ボンネビルT100のコンディションは

2008年式EFI走行距離27,000KmのボンネビルT100は、1年近く放置状態だったのでイマイチの感じがするとのことで、健康診断も含めてメンテナンス依頼を受けました。

土曜日に来店されて翌日にはメンテナンス完了の要望でしたが、土日は以前からの予定もありオイルやタイヤなどの消耗品を交換されるライダーの来店も多く土日は無理であることをお伝えして、近距離の中部圏ですから車両をお預かりして平日にメンテナンスを実施してご都合の良い日程で引き取りをされてはどうでしょうかとお伝えしたところ快諾して頂き、早々に準備開始となりました。

ある速度域でハンドルが振られるとのことでしたが、フロントのフォークシールからオイルの漏れもあり、タイヤの偏摩耗が激しくスリップサインが出はじめていることによる相乗効果でハンドルが振られているようにも見受けられ、まずはフォークシールを交換することとなりました。

走行距離27,000KmのボンネビルT100のコンディションはあまり良い状態とは云えず、3500回転以下では使いにくいことも確認出来て、エンジンからのメカノイズも大きく、ツキも悪く、本来の良さを発揮できてない例のごとく低速ではトルクが細く、空冷ボンネ本来の良さが発揮されていない状態でした。

エンジンのコンディションを整えることは一度も実施されていない車両ですから、エンジン調整を優先することにして、バルブクリアランスを確認したところ、8バルブ中すべてが基準値外で最大値を超えた状態でした。

エンジンコンディションを整えてその違いを体感したことが無い場合は、エンジンが掛かってアイドリングすれば「こんなものです」が一般的な対応となり、マフラーなどのボルトオンパーツへの変更が実情です。

しかし、足回り、マフラー交換、ファイナルレシオ等の機能パーツ変更は、その性能を引き出すためにもエンジンコンディションを最優先するのが適切であるとNWJCでは考えています。

単気筒2バルブエンジンの場合、一つずつの役割が明確で妥協が通じませんから、空冷単気筒SR500等ではキックによる始動性をはじめコンディションの良し悪しは顕著となります。

温まった後の始動性が悪いというのはよく聞く話ですが、特別な事ではなく基本に忠実なイニシャルメンテナンスで充分に対応できることなのです。

3気筒のタイガーやストリートトリプル等で、低速域で使いにくくストールするというよく聞く話ですが、バルブにカーボンの咬こみ対応は高回転で回すとか、半クラッチで対応するライテク?云々の話ではありません。

大排気量で低速域が使いにくい車両の大半は、80年代以前の2ストでもなければエンジンコンディションや機種によっては電子制御のフライバイワイヤーに起因している場合があることもお伝えしておきます。

Yさんは長年4気筒のホンダCB750を楽しまれていて、ボンネビルの2気筒は乗りにくく相性がイマイチとのことでしたが、エンジンコンディションが大きく影響していることが原因で、全域で扱いやすく低中速域では2気筒のボンネビルT100のほうが体感フィーリングも良く、勝るとも劣らない旨をお伝えしました。

後日Yさんよりメンテナンス後のレポートが届きました。

トライアンフ空冷モダンクラシックを楽しまれているビギナーからベテランまでのライダー諸兄、速さより心地よさで自由気ままにバイクライフを満喫するために、Yさんの感想も参考にしていただければと思います。

金沢のYさんより、メンテナンス後のレポート

今回、ボンネビルオーナーのブログにて度々お名前を拝見するノースウイングJCさんへ、イマイチの感じがするボンネビルの健康診断的メンテナンスと、スプロケット変更やバルブクリアランス調整も依頼しました。

自宅から約200キロ強の道のりで、ノースウイングJCさんへ。

調整前のボンネビルは良くも悪くも「ちょっと乗りにくい」外車のバイクという感じ。

今までずっとCBの4発でステップアップしてきた私にとっては、バーチカルツインってこんな感じなのか少し失敗したかな?と思っていました。はっきり言えば見た目は良いけど、微妙なバイク。

行きはいつも通り若干の疲労感を感じつつお店に到着。

そして社長と色々とお話をして不満点をズバリと言い当てられてビックリというか、そうなんです!という感じで一通り見積もって頂き、その日は預けて後日引き取りという段取りでその日は帰宅。

そして、作業完了の連絡を頂き、調整後の自分のボンネビルに乗って、すぐ思ったのが、走り出しのトルクがあるかも?そして2速へ上げると、あっなんか速くなってるかな?って感じで、同じバイクなので劇的ではないが確かに変化を感じました。

そして、圧倒的に違ったのが高速道路での定速キープ時のエンジンの安定感、トルクの出方が自然で疲れない!という感じ。

翌週、友人と街乗りツーリングを行い、交差点やUターンで低速時のエンジンの安定感をさらに体感!スプロケット変更後でエンブレもマイルドになり、ボンネビルが乗り易くなったのを実感しました。

結論としては、やってよかった!の一言。

さすがに、別物のバイクになった様です!とは言いませんが、確実に乗りやすく快適になりました。ただ難点としては他の所もチューンアップしたくなってしまう所ですね(笑)

また足回りやブレーキも相談させて頂くと思います。
今後ともよろしくお願いします。

空冷モダンクラシックを良き相棒として

心地よい走りのためにエンジンコンディションを整えてYさんのボンネビルが乗りやすくなったことは何よりです。足回りもすこしずつ手を入れて、これから長~く良き相棒として楽しめるよう助太刀したいと思います。

最近、サスティナブルとかリユースなど聞きなれない言葉を耳にすることがあり、どんな意味かと聞いてみると、持続可能とか使い捨ての消費ではなくモノを大切に長く使い続けることなど、色々な意味があるそうですが、認定中古車などと売るがための方便で一過性とならないことを願う次第です。

大切に使い続けることには大賛成です。しかし、何故中古車になったのか、何が原因なのか、メーカーは成果主義で台数至上主義だからイメージで売ることがすべてでメーカー出荷状態では工業製品としては完成品ですが、バイクライフを楽しむための価値ある道具としては何かが欠けている場合が多く見受けられるのも現実です。

トライアンフ空冷ボンネビルは発売から20年以上経過した旧型ですが、トラブルも少なく信頼性の高い車両です。しかし、外観が綺麗な中古車でも組み立て精度が低くコンディションがあまり芳しくないためか、走行距離が少ない車両が多いのも事実です。

新しいモノがすべてに優れているわけではなく、売る事が最終目的でもなく、乗り始めてからが始まりで、価値ある道具であり良き相棒と共に過ごす素敵なバイクライフを応援できる、時代に流されることのないバイク屋でありたいと常々思う次第である。

この記事の車輌・パッケージ(仕様が異なる場合があります)

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