空冷ボンネビル800を良き相棒として楽しむために ―東京のFさん
東京よりFさんが空冷ボンネビルT100の100周年記念モデルで来店されました。
エンジン音はバラツキがひどく、アイドリングも2,000回転以下では不安定でエンジンが止まってしまうような状態のボンネ800で雨の中を走ってこられました。お疲れ様です。
久々のボンネ800です。シリンダーヘッドはフィンが面取り加工されていない為フィンの先端は丸みをおびた感じがいいですね。カムカバーからオイルがにじんでフィンが少し汚れていましたが、メンテナンス後には綺麗に汚れを落とし800のフィンの美しさを強調したいですね。
車検を受けた状態で乗り始めて1年が過ぎて外観はそれなりに綺麗ですが、エンジンコンディションは相当に悪く、マニホールドなどのゴム類の劣化もすすんでいたので応急的な処置を何ケ所かに施して、次回は新品に交換することにしてエンジンコンディションを整えることにしました。
車検を通しただけのようで各部は何らメンテナンスがされていない状態で、エアークリーナーは1度も交換された事が無いようで、吸入口のスポンジはすべてはがれていて酷い状態でした。ニュートラルSW付近からのオイルの滲みもあり、クラッチケースカバーから出ているシフトシャフトのオイルシールも少し不安です。
今回は絶不調のエンジンコンディションを整えることを最優先に、オイル滲みとゴム類の交換は次回のメンテナンスとしました。
空冷ボンネビルT100 790cc
初期は790ccの800でその後865ccの900となり、キャブからインジェクションへと進化しましたが、インジェクションの方が滑らかで良いように言われていますが、キャブ車ならではの良さがありコンディションを整えると何ら遜色のない走りで楽しめます。
走りは900の方が良いという声もありますが、メーカー出荷状態では本来の良さを発揮していないのが実情ですからNWJC独自のメンテナンスでエンジンコンディションを整えれば、ボンネ900と比べても何ら遜色のない走りでトータルバランスの良さを発揮してボンネ800ならではの扱いやすさが実感できます。
初期のボンネ800は、組み立て精度が低い為かカムホルダーのマウントボルト等はトルク管理が悪いのか、かなりのオーバートルクのためトルクスT30が捻切れるほどで、ボルトを緩める事も一苦労する車両が多いのが現状です。
Fさんのボンネ800もオーバートルクでカムホルダーは緩められた形跡はなく、トルクスT30のビットが2ケ破損して工具としては機能せず廃棄となりました。
先行して作業を進めていた青森のOさんのスラクストンは車検とエンジン調整の依頼ですが、カムホルダーもすんなりとボルトが緩みましたからやれやれです。でも、この後に大阪からボンネ800がメンテナンスで入庫する予定ですから、万が一の為トルクスT30ビットのスペアを早急に準備することにしました。
このカムホルダーを緩める事が出来ないとバルブクリアランスの測定はできても調整ができませんから、何としても緩めることが必須となっています。
また、初期モデルのバルブクリアランスは、調整用のシムは無造作に入れていたのではないかと思うほど8バルブともクリアランスは基準値よりもかなり広い傾向にあります。
そのために新車状態から吸排気効率が悪く、低速域ではトルクが細く、全体に走りが重く走りがイマイチの感じは当然の事です。
エンジン音でクリアランスが広い云々を判断できるすごい方もお見えのようですが、ロッカーアームはありませんから往復運動の打音とは少し音質が異なり正常のようにも聞こえますが、バルブクリアランスは音感よりも現実的な測定が絶対条件です。
エンジンコンディションはバルブクリアランス調整などのメンテナンスを施してキャブセッテイングで整えると、加速も鋭く回転が上がるとDOHCらしくモリモリと力が湧いてくるアナログ感は最高ですね。
エンジンコンディションを整えることが最優先で、それからサスペンションやブレーキ等を整えることが順序としては最適で、仕上がっていく過程で800ボンネの良さを実感することができることでしょう。次回は足回りのバージョンUPですね。
Fさんも、エンジンコンディションが整った空冷ボンネビルT100の走りが劇的に変わったのは驚きだったようで、新車のように・・いや、それ以上かも・・と云われて納得の御様子でした。
そんなFさんよりメンテナンス後のレポートが届きました。
空冷ボンネビル800のレポを書いてみました
中古で入手した1年前は初めての大型ということもあり、余裕のあるパワーや安定感に満足していたものの、納車半年を経過し慣れてきたあたりから「本当はもっと凄いのでは?」と思い始めました。
ツーリングなどを重ね、コンディションのムラがわかるようになってからはさらに疑問が大きくなっていき、10ヶ月を経過した頃にはローギアでのエンストや咳き込むようなエンジン不調が頻発。
納車1年の機会に本格的なメンテを、できればこの車種をちゃんと知っているお店にお願いしたい、と、血眼で検索してたどり着いたのがNorth Wing JCさん。
ヴィンテージほど状態や価格のハードルが高くなく、最新モデルほど近代化されすぎていない2000年代前半の空冷キャブのトライアンフ・モダンクラシック車はとてもバランスが良く、いいところを突いていますが、共感してくれる人は少ない。
ましてや修理やメンテナンスを得意とするショップなど、今の日本にあるのだろうか…と諦めかけていたところでの出会いでした。
岐阜までは距離があり、不調の愛車で伺うのは少し躊躇しましたが、これはもう行くしかない。到着してすぐに、エンジン音を聞いた社長が「これは乗りにくかったでしょう」と。一発でわかっていただき、この時点で来てよかったと確信。期待しかありませんでした。
一泊二日で直していただいた愛車BONNEVILLE T100は、どのギア、どの速度帯でも無理なく回り、全ての機構が噛み合っている感じが体に伝わってきて、これが本来のポテンシャルなのかと衝撃を受けました。
帰路、トラックに囲まれたり渋滞や雨もあった夜の高速の長距離も全く不安は無く、東京着後も、もう少し走りたい気持ちに。
初めての車種を中古で購入する場合は新車の状態を知らないわけですが、これがそれか!と思いました。あるいは、大袈裟でなく「新車以上の状態」なのかもしれません。
ショップ店員からよく聞く「こんなものですよ」を良しとしない社長の姿勢は本物でした。
またお世話になりたいです。改めまして、この度はありがとうございました。おかげさまで、高速も一般道も最高に楽しいです。
NWJC独自のメンテナンスによりGoodコンディションに整えたボンネ800はボンネ900と比べても遜色のないその走りに本来の実力を体感されたことは何よりで、時代に流され埋もれること無く、昔ながらの素朴な乗り味の空冷ボンネビルT100がFさんの良き相棒として、これからの素敵なバイクライフを長く楽しまれることは、バイク屋NorthWing JCとしても嬉しい限りです。
トライアンフ最後の空冷モダンクラシックを1台でも多くGoodコンディションに整えて、昨今では失われつつあるアナログ感と昔ながらの素朴な乗り味で、一体感のある素敵なバイクライフを応援したいと思います。