バイク屋の備忘録

セロー250快適ロングツーリング仕様製作プロジェクト その2

バイク屋North Wing JCは、チョイ乗りの普段使いからキャンプ道具などをフル積載したロングツーリングまで、快適に楽しめるセロー250のツーリング仕様を製作するあるプロジェクトに参加している。

このプロジェクトは梅雨とコロナ禍で予定より随分遅れているが、緊急事態宣言解除に合わせて西の定番ルートでバイク屋自らの実体験により、セロー250が快適ロングツーリング仕様へと深化する過程を伝えたいと思う次第である。

新しいものがすべてに良いとした話題つくりの提灯記事による疑似体験で、成果主義や台数至上主義のために流通業として如何に売るかよりも、バイク屋のバイク乗りとしての実体験に基づいて、如何に楽しめるかを提案できることが重要であると考えている。

フル積載のセロー250を心地よく楽しむために

トライアンフ最後の空冷スクランブラーNWJC2014仕様を長年楽しんでこられた大阪のTさんは、毎年北海道ツーリングを楽しまれてきたが、歳を重ねるごとにスクランブラー900のサイズと車重が苦になり始めたとの事で、スクランブラー900からツーリングセロー250に乗り換えられた。

セロー250はコンパクトな車体で軽く使い勝手が良いとの事だったが、積載状態になると高速移動では80Km/hを越えるとフラフラして直進安定性が悪く乗り続けることが苦痛であるとのことだった。

トライアンフ最後の空冷ボンネビルT100楽しむ三河のKさんも、セカンドバイクとしてツーリングセローでロングツーリングを楽しむつもりでいたが、積載状態となると、直進性も悪く心地よく楽しめず手放したとの事。

バイク旅では積載力は必須となるが、直進安定性や操縦性に問題があるという声は、ツーリングセローに限らずオフモデルに乗る多くのライダー諸兄から出る話であるが、オフに特化した仕様では積載性は求められてないのが実情である。

若かりし頃は荷物を背負って走る事もあったが、歳を重ねたおっさんライダーにはもう無理なことで、オフロードもガンガン走るのではなく、速さより心地よさでのんびりとツーリングを楽しみたいと思う次第である。

日本の道路事情でロングツーリングを楽しむことは、未舗装は全体の数パーセントのため、ロングツーリングを快適に楽しむ為のセロー250であればオフモデルのマウテントレールとして特化することよりも、道を選ぶことも無くマルチパーパスにバイク旅を楽しめるよう、SL230TMと同様にNWJC独自の手法でロードモデル寄りにアレンジすることを提案したいと思う。

速さより心地よさをコンセプトとして、曖昧さと和洋折衷のような大らかさにより、普段使いからフル積載のバイク旅まで、気負うことなく脇道へ逸れることや立ち止まることも厭わず、自由気ままにフィールドを拡げてマルチパーパスに楽しめるNWJCツーリングマスターへの深化を試みることにした。

今回は西の定番ルートで積載状態のセロー250を走らせて、積載時の問題点を含みフル積載状態でトータルバランスを整えることで、心地よく走り続けられる仕様へと深化している過程をチェックすることが主な目的であった。

積載性については様々なスタイルがあると思うが、できるだけ低くホイルベース内に収まるように積載することが、操縦性と安定性に悪影響がでない最善の積載であると、バイク屋の実体験から思う次第である。

NWJCオリジナルのリアキャリアKitはトップケースも装着できる仕様で、今回はGIVI TRK52Lのトップケースを装着して、Cappa製のサイドバックは片側25Lで両方では50Lとなり、トータル100L以上の容量を確保した仕様を走らせてみた。

積載性を高めるためにリアキャリアを装備することは一般的だが、リアキャリアKitをシートレールの一部として剛性と耐荷重性を高めることが、ヨレ感も無くより安定感のある心地よい走りには必須である。勿論、今回の仕様も抜かりなく準備OKである。

足回りはプリロード調整か強化サスへの換装で対応するなど、バイク屋のバイク乗りとしての実体験に基づいたアドバイスはケースbyケースであり、フル積載状態で走らせてその問題点や違和感を体験することは、トータルバランスを整えるうえで不可欠である。

実体験もなく、疑似体験によるイメージだけでボルトオンパーツの組み込みでは解決できない問題も数多くあるから、バイク屋のバイク乗りとしての経験は疑似体験ではなく実体験が必須である。

セロー250を西の定番ルートでチェック

西の定番ルートではキャンプ道具を左右のサイドバックに詰め込み、数日間を走る装備も含めた積載状態として、1泊2日で約1,300Kmを走らせて各部をチェックする事ができた。 

トータルバランスを高めて心地よい走りを得る為にバイク屋のバイク乗りとしての試行錯誤は、いつものことだがワクワクしてその変化する過程を楽しみ、いつものことながら実体験がすべてであることを実感する次第である。

1日目はいつものメンバーの村田さんと越前若狭の道の駅「熊川宿」で合流して、因幡若桜の道の駅「若桜」を経由して蒜山から大山へ向かう予定でいたが、雷と大雨の情報を得て大山方面は中止した。村田さんは日帰りのため蒜山で別れたが、セローと同じカテゴリーのSL230をロードモデル寄りにアレンジしたNWJCツーリングマスターの心地よい走りを久々に楽しまれたようである。

更に西へと主に県道を走りつないでセロー250を走らせた道すがら雷と急な雨に何度も出会い、フル積載状態でぬれた路面での安定性や操縦性など各部をチェックするには都合の良い、様々な条件下で走り続けることができた。

天候不順で雷と雨の中を何度も駆け抜けたが、急な雨でもNWJCオリジナルのスクリーンの防風性と防雨効果も確認できた。肩から肘の辺りが少し湿ってくる程度で、ツーリングパンツはRSAレザーズでフルオーダーのオールウエザー仕様で、ブーツはゴアテックス仕様のおかげで、下回りはシブキでずぶ濡れでも中はサラサラで短時間の雨ではレインウエアーを着る事も無く走り続ける事ができた。

2日目は早朝から苔むしたワインディングでは時々足をとられ、ワインディングから海辺の砂地や、あの世とこの世の境にあると云われる黄泉比良坂またの名を伊賦夜坂と云い、大穴牟遅神が黄泉の国の長であるスサノオノミコトより大国主命の名を賜り、黄泉の国から還ることで国津神の長となった神話(古事記)の地も訪ねた。ヨミガエリとは物理的な面と精神的な面の両面からのバージョンアップとして納得である。

お気に入りの神話の地も訪ねてあっちへフラフラ、こっちへフラフラと約770Kmを駆けぬけて、帰路では関ヶ原ICから岐阜羽島ICまで名神高速に乗り、最高速で巡航させてフル積載状態での高速安定性も確認して、足回りをもう少し煮詰める事が課題として残ったが、おおむね良好で緩やかな楽しい時間を過ごす事ができた。

セロー250が旅バイクへと深化する過程で、使い勝手の良いサイズ感と積載状態でも軽量だから臆することなく、自由気ままにフィールドを拡げて楽しめるマルチパーパスの良さを発揮しはじめて、SL230ツーリングマスターと同じ匂いを感じた。

満タンで300Kmは楽々走れるセロー250の航続距離は、日曜日に休業のGSや廃業したGSが増えても予備のガソリンを使うことなく走り続けられる安心感がある。しかし、予備ガスは必ず携行する事がバイク旅では必須である。

時代が求める車格と価値観

素敵なバイクライフとは、スペック、車格、価格、ブランドや流行り廃りに囚われることなく、お気に入りのバイクによるバイクライフに自信と誇りを持てることである。

バイク屋RBRのオヤジが、ホンダのF1撤退の新聞記事からHondaが「ホンダ技研工業」であり「ホンダ自動車」ではない、と言ったとか云わないとかで落ち込んでいたが、それが今のホンダの価値観であり、トヨタ自動車が100万人の雇用を守る為の提案も、トヨタの価値観であると思う。

RBR公式サイト『皆さんいかがお過ごしでしょうか』

新しいものがすべてに良いとした話題つくりの提灯記事による疑似体験は、現実とのギャップが大きくバーチャルの世界でのバイクライフを提案しているようでもあり、如何に楽しむかよりも如何に売るかが全てでは等閑(なおざり)ではないか。

スペック、車格、ブランドや新旧に関わらず、バイク屋の実体験に基づいて、お気に入りのバイクをGoodコンディションに整えることや、如何に楽しめるかを提案できることで、素敵なバイクライフを満喫するための応援やお手伝いがバイク屋に求められていることのように思う今日この頃である。

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