バイクは健康療具

騙されることについて

  • いつものメンバーの村田さんより久々に「バイクは健康療具」のレポートが届きました。

    村田さんとは今年の5月に久々の西日本を一緒に楽しむ予定でしたが、緊急の仕事のため翌日は山口から高速でトライアンフ 空冷スクランブラー2014仕様を駆ってとんぼ返りとなり、その後は天候不順とコロナ感染対策のため等により日程が合わず、ツーリングはご無沙汰となっています。

    カブはタイカブのドリーム125からNWJCコンプリートType2へと乗り続けて、17インチホイールから14インチホイールへと乗り比べてその特性も含みその変化や深化の過程を10数年にわたって楽しみ、大型バイクはゴールドウイング1800も卒業して緩やかな放物線を描くバイクライフを30数年にわたり楽しまれている経験豊富なベテランライダーです。

    精神科医としての目線からのレポートは、素敵なバイクライフのための心の糧として一読されることをお勧めしたいと思います。

バイクを楽しみたいけれど

最近は、コロナウイルス感染対策の為、バイクを思うように楽しめないでいる。

皆さんのブログを読ませて頂きながら、いろいろと思うことがあった。

コロナウイルス感染対策の為、外出できずに自宅にこもりがちになると、ついついネットで動画を見てしまう。ネットの動画では、実体験している姿が配信されているので、信じやすい。

しかし、間違った情報や、勘違いをさせてしまうような内容のものを発信しているものがものすごく多く、それに対してイイネをしている数もものすごく多い。

バイクを楽しむための情報は、大きく二分されているようだ。実体験に基づく情報と、そうではない情報だ。

そうではない提案にはいろいろあって、実体験に「基づくっぽく」見せているものから、全くの空想に基づくものまである。全くの空想の世界のものは、発想の奇抜さがあり、見ているだけならあまり害は無いように思われる。

一方で、実体験に「基づくっぽい」ものは、正しくないものが多く有害だと思う。

メンテナンスを披露している動画も色々見てみた。カブのバルブクリアランスを調整する動画があったのだが、酷いものだった。専用の工具を使ってはいたが、プロのバイク屋さんに指南を受けたと言って、手の感覚のみで調整し、バルブの打音が出なくなったらOK、という内容だった。

私は、オイルやガソリンの種類と、積んでいる荷物の量もほぼ同じカブ110NWJCコンプリートに乗り、数人でツーリングに出かけた時に、他のメンバーと同じように加速することもコーナリングすることも出来なかったことがあった。

その後バルブクリアランスを、シックネスゲージを使ってのクリアランス測定により0.02㎜調整してもらっただけで、同じように加速し同じようにコーナリング出来るようになった経験がある。

さらに、計測するシックネスゲージの感触はとても微妙であり、これで良いと思っても狭すぎたり広すぎたりととても難しいことを経験したこともある。シックネスゲージを使わず手の感覚だけで調整ができるとは神の手というより孫の手とでも呼べばよいのか。

また、調整するロックナットにかけるトルクの強弱で緩みや歪みが生じ、バルブクリアランスの調整が難しくなる恐れがあることも教わった。

そういう経験があると、そのメンテナンス動画はカブユーザーにとって凄く有害な動画だと分かる。しかし、経験がないユーザーはバルブクリアランスの重要性も分からないし、サンデーメカニックの危険性も知らないまま、少しバイク通になった感覚を味わおうとして真似をしてしまうだろう。

実体験している情報は、そのレベルは様々だ。ネットの動画を見ると、初心者により近い立場を装い、経験値が少なくても簡単に手をだせそうで、分かりやすいものが多い。

経験の少ない学生時代の私であったなら、その情報を真に受けて、その情報発信者の信者になっているだろう。経験や知識が少ない人はそういう情報に魅力を感じてしまいがちだ。

実体験に基づく体験は、私たちユーザー自身も実体験可能だ。しかし、提案をする人が実体験しているから、安心できる情報だ、というのは間違いだ。

情報の善し悪しを判断するには私たちにも経験が必要となる。

そもそも、なぜ騙されてしまうのだろう?

バイクに乗りだす入り口では、バイクを楽しみたい、でもどうしてよいか分からない、という状態だ。出来るだけ授業料を払わずに、バイクを楽しみたい。だから、ネットで情報を漁る。手軽に検索出来て、量が多い。

経験が乏しいから、画像や動画を見てバーチャルに浸りながら、自分の想像できる範囲で、レベルの低い判断基準で、ネットからの情報を取り込んでいく。その過程では、新しく評価が高い情報を信じがちだ。

皆がバイクを楽しもうとして情報配信している、と思い込んで情報収集をする。ネットの情報は、対面しない一方的なものだから、無責任な状態で発信されている。ということまでは考えない。

みんなでバイクに乗って楽しもう、という内容の動画が、いつの間にか、バイクを飾って自慢しよう、という内容に方向転換しているものがある。徐々に内容が変化すると、SNSで逐次情報収集する流れに乗っていると、自分が何をしたいのか気付かなくなってしまう。

ネット動画にハマってしまうと

自己陶酔するためにネット配信を続けているライダーもいるようだ。酔いは醒めてしまうから、さらに新しい自己陶酔の素材を求めて、色々な情報を配信し続けているようだ。

心には満腹感がないから、次から次へと新しい話題が必要になる。絵に描いた餅で空腹を紛らせるように、人とは違うもの、奇を衒ったもの、が欲しくなる。その為、騙し騙されやすくなる。

バイクに乗り始めた時は、乗って動かしているだけで十分楽しいし満足できる。暫くすると、他人が自分をどう見ているのか気になったりする。バイク通になりたいと思ったりする。通になるには情報が必要だ。手っ取り早く通になるにはどうしたら良いのだろう。

そこに、インターネットの情報がある。いかにもバイク通っぽいライダーが情報を配信している。動画を見ているとバーチャルで自分も通になった気分になってしまう。いろいろなチャンネルを登録して見続けていると・・・。

本当に心の満足感が得られる体験は、どういうものなのか。

ものごとの本質に近づく体験、コツコツとユーザー自身が実体験を積み重ねることが必要で、残念ながら都合の良い近道はない。そういうものだと思う。

自分自身が実体験して

私は、ネットの情報に染まる前に(雑誌の情報に染まっていたが・・・)トレッキングごっこを通じてバイクと会話が出来るようになった。

バイクとの会話を通じて、少しずつ各部がきちんと機能しているかどうかを感じ取れるようになった。良いものと悪いものの違いを自分なりに感じるようになった。

その反面、自分のレベルの低さに気付かされ、傷つくこともあった。しかしそれを続けていると不思議なもので、レベルが低いという自覚はあっても、自分のバイクライフに満足できるようになった。

自分の現在の価値観のレベルに合った満足感を得られるようになった。振り返ってみると、それからバイクという乗り物に深く魅了されたのだと思う。

皆さんにも、自分らしさ、自分の価値観を、自分の経験を基に理解してくれる、自分の身の丈に合ったバイクライフを提案してくれる、素敵なバイク屋さんと出会ってほしいと願う。

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