バイク屋の備忘録

SL230ツーリングマスターを存分に楽しむ

バイク旅では出発地から目的地までの過程をどのように楽しむか、時間に追われながら点と点をつないでより遠くへ距離を稼ぐ弾丸ツーリングなるスタイルから、速さより心地よさで自由気ままにフィールドを拡げて道草を楽しむバイク旅まで、その楽しみ方は十人十色。

「速さより心地よさ」「何かに特化しない曖昧さ」「和洋折衷のような大らかさ」をコンセプトとしたNWJCツーリングマスターは、バイク屋自らの実体験に基づいたメンテナンスとモディファイにより、フル積載時の操縦性と安定性を高めて積載を意識することの無い使い勝手の良さで、立ち止まることや、脇道へそれて自由気ままにフィールドを拡げ道草も楽しめるコンパクトツアラーを目指したことが始まりである。

ダウンサイジングは持て余すことのない使い勝手の良さが魅力

長距離ツーリングを楽しめるツアラーは積載力が高く、道を選ぶことも無い?アドベンチャーモデルも含み一般的にBigバイクが主流であるが、排気量も大きく車体も大きいから車重も重くフル積載となれば気軽に立ち止まり脇道へ入り込んで楽しむことは持て余す為か億劫になり、幹線道が主体の単調な軌跡を描く弾丸ツーリング+αのツーリングスタイルが一般的となっている。

コミュニケーションの小道具としてのチョイ乗りツーリング等とは一線を画す経験豊富なライダー諸兄の多くは、弾丸ツーリングのような単調な軌跡を描くことから、気負わず自由きままに複雑な軌跡を描く面白さを体験すると大型より中型へと、更なるダウンサイジングでその良さを実感されていることと思う。

おっさんライダーが、日本列島縦断のバイク旅でカブ110Proをベース車としたカブ110NWJCコンプリートを走らせて、軽量コンパクトなバイクなら何ら躊躇する事も無く、立ち止まることや手軽にUターンも出来て、道草を楽しめる使い勝手の良さと、緩やかな速度域での視界の拡がりは新たな発見もあり、同じ走行距離なら軽量コンパクトな車格のほうが疲れないことも知る事が出来た。

軽2輪であれば市街地の渋滞は自動車道でパスする事もできて、フル積載で脇道へ逸れたり立ち止まったりすることが苦でもなく自由気ままに道草も楽しめる旅バイク「欲張りなおっさん仕様」は、車両重量105Kgと軽量コンパクトで、道を選ばない使い勝手の良いタフなSL230をベース車両として始まった。

その旅バイクSL230ツーリングマスター(以下SL230TM)は、20年以上前の車両で5万キロを越えていてオイル消費が僅かに多いという問題があったためメンテナンスを施し慣らしも終えて蘇ったから、空冷シングルSL230TM特有の速さより心地よさで一日中走り続けて何処かへ行きたいと思案していた。

ダウサイジングによる長所と短所

キャンプツーリングも含みバイク旅を楽しむための積載量は最低でも70~100ℓ以上は必要となる。それは大型でも中型でも車格の大小に関わらず同じである。

大型ツアラーは積載などを前提としているからフレーム剛性や耐荷重性も高く、100ℓ以上を積み込みタンデムでもコーナーリングや直進安定性などには何ら問題はないが、道を選ぶ事も無く自由気ままに立ち止まったり脇道へそれたりして道草を楽しむことは、その車格からでは思うように扱うことが出来ず持て余すためか主要幹線道路をメインとして単調な軌跡を描くことになっているのが実情のようである。

軽量コンパクトな250クラスの車格になると、バイク旅には必須の70ℓ以上の積載にはリアキャリアを大型化すれば可能なこととなるが、積載状態でのコーナーリングでは思うように曲がれず操縦性が悪く、直線でもある速度域からはハンドルのブレや荒れた路面ではフレームがグニャググニャして前と後ろが捩れるヨレが発生して安定性などに多くの問題が発生する場合がある。

旅バイクとして人気があるYAMAHA ツーリング・セロー250は、大型のリアキャリアとサイドステーにスクリーンなどを標準装備した新車からの仕様だが、フル積載で80Km/h以上で走らせると車体がグニャグニャした感じで直進安定性も悪く、コーナーリングでも軽量コンパクトな車格を活かした軽快な走りを楽しむ事が出来ないのが現実であり、長距離でなくてもお尻が痛くなるシートはとても不評のようである。

バイクに乗らないバイクショップでは、売るがための提灯記事を頼りに疑似体験によるセールストークやメンテナンスは消耗品交換がメインとなり調整は空気圧とチェーン程度で、違和感には「こんなものです」とした対応が多いように聞いている。

ダウンサイジングしたバイク旅では違和感や問題を体験すると、ダウンサイジングの良さを存分に発揮できないままに次回のバイク旅を躊躇してしまう場合も多く見受けられるが、持て余す大型ツアラーか使い勝手の良いダウンサイジングか、其々に一長一短があり悩める問題に思えるが、ダウンサイジングした車両での問題は対策が可能で、心地よくバイク旅ができる仕様に深化できることを伝えておきたいと思う。

深化したセロー250の記事一覧

バイク屋の実体験が物語る

余談だが、バイク屋RBRさんではCB250NWJCツーリングマスターが道を選ぶ事も無く楽しめると、とても好評だが、ベース車両のCB250Rがとても良いバイクで、リアキャリアとブロックタイヤを履けばフル積載で剣山スーパー林道でも楽しめるような誤解を招くイメージだったから、リアキャリアだけでフル積載にして走らせると、どうなるか一度試すことを奨めた。

メーカー出荷のCB250Rにボルトオンパーツのリアキャリアを組み付けただけの仕様とベース車両がCB250RであるだけのCB250NWJCツーリングマスターでは、比べるまでも無く別モノであることを実感されたようである。

バイク屋RBRのオヤジに一言「ボーっと生きてんじゃね~、チコちゃんにしかられるヨ!」。

RBR公式サイト『 CB250R-NWJCツーリングマスターについて』

SL230にリアキャリアを取り付けてトップケースだけで走らせて、「とてもじゃないがこんなSL230でツーリングはできない」と断言したのは、深化したSL230TMを駆って九州から北海道まで日本各地をバイク旅で楽しんだ里見君。

STDのSL230とNWJC独自の旅バイクSL230TMでは、外観上の違いだけでは無く、ボルトオンパーツの組み込みだけでは得がたい乗り味は、バイク屋NWJC独自のメンテナンスとモディファイが隠し味となっていることは云うまでもない。

今回の気ままツーリングでは、深化したSL230TMの実力を改めて再確認できることが楽しみであった。

SL230TMを駆って定番の西へ

10月に入るとコロナ禍も少し落ちつき政府も観光を推奨しているから遠出も気兼ねなく出来るようになり、山形から信越方面の風景が白くなる前に久々に鳥海山の麓の遊佐で鮭の遡上を見に行くことを予定していた。

鮭の遡上は長年にわたって北海道にて色々なところで楽しんできたが、ここ数年は岐阜から近い石川の手取川や富山の早月川、新潟の三面川など、自然の営みにふれる事で季節の移ろいを楽しんでいる。

遊佐へ出かける数日前のこと、東京からツーリング途中に立ち寄られたJ・Kさんが、10月には入ると自治体の観光キャンペーンが始まり泊まるところが無いと聞いた。

早速に定番のB/Hを調べたところ平日でもどこも空きが無いとは・・。J・Kさんからの情報が無いまま東北へ向えば、夜は寒さに震えながらの野宿となっていたことだろう。

SL230TMを駆って鮭の遡上を見ながら自由気ままな道草ツーリングを久々の東北方面で楽しむ予定でいたが、どこも宿に空きが無いため寒い東北は中止して、定番の西へ向けて目的地は決めないままに野宿ができる装備を積み込んで夜明け前に走り始めた。

日帰りとなるか何処かで野宿をするか何も決めず気ままに、GoodコンディションのSL230TMで定番の西へ向けて一日中延々と走り続けて、その体感フィーリングの良さを存分に楽しむことにした。

本日の走行距離875Km也

夜明け前から走り始めて、朝焼けをみるつもりですぐ近くの長良川の堤防へ上がったが、東の空は真っ暗で東雲にはまだ時間がありそう。

どうしようかな・・・そのまま川沿いに下り安八ICから高速道へ、エンジンメンテナンスに合わせてSL230TMのファイナルレシオを変更したチェックを兼ねて関が原ICまでの2区間だけを走り、積載状態でも100Km/h巡航でストレス無く楽しめそうで、少し速いトラックの後ろについて6速で流すと瞬く間に関ヶ原IC。

市街地の渋滞をパスするとか急用で引き返すこともこれで充分であることが確認出来て納得である。

東の空が僅かに白み朝焼けをどこで見られるか気になるが、とにかく寒く伊吹山の麓で外気温度は5度と寒い。その後、脇道へ逸れて朝焼けを見たが、おっさんライダーには寒さが骨身に堪える。

SL230TMの専用スクリーンによる防風効果はチョイ乗りならその恩恵は感じられないかもしれないが、これからの季節で1日中走り続けるバイク旅には必須であることを改めて実感した次第である。

とりあえず関ヶ原から農道を抜けて木之本・小浜・夜久野・養父・若桜・辰巳峠を経由するいつもの定番ルートで蒜山高原へ向かっているようである。その道すがら何度も立ち止まり、脇道へ逸れることを繰り返す道草ツーリングを存分に楽しむ事ができて、ダウンサイジングする良さを改めて実感した次第である。

脇道で大山を眺めて蒜山から米子へ一般道で下り、米子から琴浦までは山陰道の無料区間を利用して一気に移動して、いつもの竹輪屋でハンペンを揚げてもらった後、定ポイントに到着。

海を眺めながら、戸倉トンネルの手前にある百葉箱が無かったが修理してるのかな・・田んぼのあぜ道で草刈りをしていたトラクターはランボルギーニだったのかな・・そんなことを思いながらハンペンを食べ熱いお茶を淹れてのんびりする。

快晴で日もまだ高く、砂丘のラッキョ畑から夕日を眺めることでこれからのルートをぼんやりと描く。一山越える峠越えを思いつき再び走り始める。何も決めていない自由気ままな思いつきツーリングは実に楽しい。

峠を越えた頃には急に陽が傾き始めて夕暮れはいつものことで儚い。急ぎラッキョ畑へ向かうが陽は沈んでいた。でも、水平線は紅く染まり漁火も綺麗でこの風景に出会えたのも一期一会。

岐阜まで約300Km、今からブラブラと走れば今日中に帰り着くことが出来る。ソロの時は周りに気兼ねなくどこでも立ち止まれてまさに自由気ままだから、このままブラブラと走り続けることを楽しむ。

持て余すことのない車格と使いこなせる排気量のコンパクトツアラーであるSL230TMを自由気ままに延々と走らせて、身の丈にあった価値ある道具である事を五感で知る。

バイク屋のバイク乗りとして、人の関わる領域が広いアナログバイクをGoodコンディションに整えて乗り続けることで、価値観と価値の違いも実感した次第である。

この記事の車輌・パッケージ(仕様が異なる場合があります)

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