大阪よりHさんがボンネビルT100で来店
大阪のHさんから2003年T100のメンテナンス依頼があり来店されました。
以前エンジンメンテナンスで東京から来店されたFさんと同じ100周年記念モデルです。
Hさんからは、ボンネビルにこれから乗りたいが、中古の良いものはありませんかと問い合わせを受けたことがあります。その時は手持ちの車両が無いことをお伝えすると、Hさんはボンネビルに乗る機会ができましたらメンテナンスの事で改めて相談したいとのことでした。
その後、Hさんからボンネビルのメンテナンスの問い合わせがあり、以前ボンネビルの事で問い合わせをしたことがあるとのことで、ああ、あの時の・・・やっぱりボンネでしたね、と嬉しく思った次第です。
車両の状態に関しては何も分からないから一度各部をチェックしてメンテナンスをお願いしたいとのことで、車両を預けますから各部をしっかりチェックして下さいと依頼を受けました。
エンジンコンディションが整ったあとは、パニアケースにキング&クィーンのシートを装備して奥様とのタンデムも楽しみたいとのことですから、まずはエンジンのコンディションを整えることから始めました。
2003年式空冷ボンネビルT100
ボンネ800のシリンダーヘッドはフィンの先端は丸みをおびた感じがGoodです。ボンネ900の初期モデルも、800と同じ丸みを帯びたシリンダーヘッドがクラシックな感じで個人的にお気に入りです。
東京のFさんが、ヴィンテージほど状態や価格のハードルが高くなく、水冷モデルのように電子制御満載で近代化されすぎているわけでもなく、バランスが良くいいところ突いていると云われていましたが、まったく同感です。
近代化されすぎていないのも魅力であり、現行の水冷ボンネビル等の最新モデルでは、トラクションコントロールにABSブレーキ、電子スロットルなどライダーの感性と感度が反映されることも無く分かりにくいことは違和感であり、一体感よりもオペレーターとして移動することが目的ではつまらない。
また、一般道を勘違いした速さで駆け抜けるための電子制御でもないと思うが如何でしょう。
勘違いすることが無ければよいと思うのですが、初心者がライダーとしてのスキルアップはどのようにして実感できるのだろうか、慣れとは異なることに関してはどのように実感できるのだろうか。
一般道ではライダーが主でありバイクが従であるのが理想だから、新しいものがすべてに良いとは限らないと常々思っている次第である。
速さより心地よさ
トライアンフ空冷ボンネビルT100は、人の関わる領域が広い昔ながらの素朴な乗り味が魅力であり、バイク屋のおっさんライダーのお気に入りである。
速さより心地よさをコンセプトに、何かに特化することの無い「曖昧さ」と和洋折衷のような「大らかさ」で、普段使いからバイク旅まで道を選ぶことも無く自由気ままにフィールドを拡げて、気負うことなく存分に楽しめることを多くのライダーに伝えたいと常々思う次第である。
SR500NWJC-TMを走らせて久々の能登を楽しんだ時のことだが、SRは判りやすいことと物足りなさを人車一体で補って走らせるところが魅力であると改めて実感できた。おっさんライダーの独断と偏見でNWJCトラディショナルとして認定しているトライアンフ空冷ボンネビルT100は、SR同様に判りやすいことと物足りなさもあり、アナログ感も大切にしたい。
おっさんライダー認定NWJCトラディショナルのトライアンフ空冷モダンクラシックも判りやすさと物足りなさが魅力だが、車両のコンディションが悪いと、本当の意味での判りやすさと物足りなさの良さが分りにくくなっているのが実情である。
判りやすさは、車両のコンディションが悪いと低速域で扱いにくくなるところが顕著となり、のんびりと走らせることが苦痛となる。その逆は速度を落としても悠々と心地よい走りを楽しめるのはコンディションの良さを意味している。
また、コンディションが悪いと、点と点をつなぐことが目的となり高速での移動となりがちであるが、Goodコンディションであれば速度を抑えることで周りの景色を見渡す余裕が生まれて色々なものが見えて、Go&Stopを繰り返し脇道にそれることも厭わず、走り続けるバイク旅の面白さが実感できるだろう。
物足りなさはスペック云々の事ではない、素朴な乗り味のモダンクラシックらしく人車一体で補い、良き相棒とのコミュニケーションを存分に楽しめることでもある。
空冷ボンネビル800をタンデムでも楽しめるようコンディションを整える
初期は790ccの800でその後865ccの900となり、キャブからインジェクションへと進化しました。
インジェクションの方が滑らかで良いように言われていますが、キャブ車ならではのアナログ感は操作感にその良さがあり、コンディションを整えると何ら遜色のない心地よい走りで楽しめます。
HさんのT100のエンジン音はバラツキがひどく、アイドリング時もエンジンからガチャガチャと異音が聞こえるくらい不安定でしたから、大阪からの道のりは遠く感じられたことと思います。お疲れ様です。
2003年式で走行距離は4,300Kmですから、ほとんど乗ることが無く置いてあった車両のようです。その場合シリンダーなどエンジン内部にも錆が浮く場合もあり、走らせながら時間をかけて本来の良さを引き出すことも含みコンディションを整えることとしました。
走行距離が出ていない車両は使われていないから良いようにも思えるのですが、バイク屋NWJCでは使い続けている車両で走行距離が延びていても、定期的なメンテナンスによりGoodコンディションを保っている車両が多く、走行距離だけでは判断できないのが実情です。
初期モデルの800のバルブクリアランスは、調整用のシムは無造作に入れていたのではないかと思うほど8バルブともクリアランスは基準値よりもかなり広い傾向にあり、HさんのT100も例にもれず、エンジンのバルブクリアランスを計測してみると、8バルブすべてが最大値を超えていました。
ロッカーアームはありませんから往復運動の打音とは少し音質が異なり正常のようにも聞こえますが、バルブクリアランスは音感よりも現実的な測定が絶対条件です。
クリアランスに関してはあまり重要ではないという声が大半のようですが、調整前と後の違いは乗り味にも大きく影響しています。
新車状態から吸排気効率が悪く、低速域ではトルクが細く、全体に走りが重く走りがイマイチの感じは当然の事です。その差が顕著に表れるのは低速域でもトルクフルで悠々と走り続けることができるか、ある回転域以下では扱いにくさが顔をのぞかせて、その違いが顕著となるのが実情です。
エンジンコンディションはバルブクリアランス調整などのメンテナンスを施した後にキャブの油面も含めてトータルで整えると、回転が上がると加速も鋭くDOHCらしくモリモリと力が湧いてくるアナログ感は最高です。
メンテナンス終了後に奥様と共にT100を引き取りに来店されたHさんは、タンデムで一般道をのんびりと奈良方面を経由して帰路につかれました。
その翌日、Hさんから滑らかな走りでタンデムも楽しむことができたと連絡を頂き、タンデム用バックレスト付きのリアキャリアが出来上がるのを楽しみにしているとのことでした。
タンデム用のリアキャリアとシートを装備したタンデム仕様の件は、少し時間を頂きますがお任せください。
トライアンフ空冷ボンネビルによる心地よい走りを楽しまれたのは何よりで、嬉しい限りです。
1台でも多くの空冷モダンクラシックをGoodコンディションで楽しんで頂きたいと常々思う次第です。何なりとお気軽にご相談ください。