トライアンフ最後の空冷モダンクラシックを楽しむために

トライアンフ ボンネビルが復刻した2001年よりバイク屋のバイク乗りとしてトライアンフ最後の空冷モダンクラシックシリーズを乗り続けてきました。

普段使いからバイク旅まで気負うことなく自由気ままに楽しむ為に、「乗り続けないと判らないこと」「乗り続けて解かること」などを踏まえて、すべてはバイク屋自らがライダーとしての実体験から始まると考えています。

バイクも電子制御満載が時代の流れですが、トライアンフ最後の空冷モダンクラシックは、時代に流されること無く守り続けてきたものは、スペックやハイテク技術を盛り込みバイクと人の間に制御装置などの機械が介在するのではなく、あくまでも操る人の感性が第一であるという素朴な乗り味です。

一般道だからこそカテゴリーやスペック等に囚われることもなく、速さより心地よさをコンセプトに、何かに特化することの無い曖昧さと和洋折衷のような大らかさで、普段使いからバイク旅まで道を選ぶことも無く自由気ままにフィールドを拡げて、気負うことなく存分に楽しめるトライアンフ空冷ボンネビル2014仕様・スクランブラー2014仕様など、NWJCツーリングマスターへの深化はバイク屋自らの実体験に基づいた提案です。

エンジンから足回りにいたるまでコンディションを整えた空冷ボンネビルやスクランブラーでも、定期的な点検を怠ると緩やかにコンディションが崩れることは物理的に当然のことですが、その変化には気づかない場合も多く見受けられます。しかし、コンディションを整えていない車輌とはその乗り味には雲泥の差があります。

この季節、市街地走行で熱ダレが発生する状況の対策として、熱に強いとされる高性能オイルを使用しても冷却効果はほとんど期待できません。意外に思われる方も多いと思いますが、熱ダレ対策はエンジンコンディションを整えて燃焼室内への燃料の充填効率を高める事が冷却には最も有効な手段です。

新車状態からコンディションが整っていないため、その走りには「こんなものかな」と違和感を覚え、走行距離は僅かで手放された車輌も数多く見受けられ、外観の程度が良いとエンジンコンディションも良いと思われるのは当然のことですが、念願かなって手に入れた空冷モダンクラシックを走らせると「こんなものかな」と、その乗り味に違和感を覚える場合が多いのも事実です。

京都のI・Yさん、空冷スクランブラー900のコンディションは如何に

京都のI・Yさんから、乗り始めて間もない空冷スクランブラーのコンディションに関して、クラッチを切るとエンジンが止まってしまう症状が出るのですが、何が原因でしょうかと問い合わせがあり、各部をチェックしてコンディションを整える事ができるでしょうかとのことでした。

日程を調整して、京都より岐阜までをツーリングで一走りして頂き、車両をお預かりして各部をチェックしてコンディションを整えることになりました。

スタイルもお気に入りの空冷最後のスクランブラー900をこれから楽しむために、新車から15~16年経過した車両のコンディションはどれが本来なのか。現状のコンディションについては、購入したバイクショップから「こんなものですよ」と聞いていたそうですが、「こんなものです」とは一体何を基準とするのでしょうか。

「こんなものです」というコンディション

バイク屋のバイク乗りとして捉えると、好みは別問題として違和感や問題には物理的な原因があり「こんなものです」では納得できることと、納得できないことがあります。エンジンがかかってアクセルを開ければ回転が上がるから「こんなものです」という対応は、バイクに乗らないバイクショップではテスターチェックのみで感覚的に違和感や不快感を捉えることも無く、それが当然の事のようです。

バイクのコンディションはライテクでカバーするという提案をされるショップもあるようですが、コンディションが整っていない車両をライテクで云々は、半クラッチの多用などによる誤魔化しでライテクとは云えない場合が見受けられます。半クラッチ等を多用することも無く、低回転域から鼓動感のある心地よい走りを楽しめるのが、コンディションが整った空冷スクランブラー900本来の性能です。

売るが為の提灯記事は良いことばかりを謳っていますが、メーカー出荷の新車状態からGoodコンディションの空冷モダンクラシックには一度も出会ったことがありません。意外に思われるかもしれませんが、それが事実であり現実です。

低回転域ではトルクが細く、乗り続けるうちに症状が悪化してシフトダウンなどでクラッチを切るとエンジンが止まってしまうなど、決して楽しめる状態ではない車両も多く、800・900の力強さが感じられず「こんなものかな・・」と疑問を持ちながらも乗られているライダー諸兄は、旧いからこんなものと思い込まれている場合も多く見受けられます。

京都のI・Yさんがこれから楽しんで乗りたいと思われているスクランブラー900は、上記の症状が当てはまるコンディションでした。

余談ですが、エンジンコンディションを整えることも無いままに、マフラー交換、メインジェットの変更やMapの書き換え等、部品交換により若干の変化は体感できても、空冷モダンクラシックが持つ体感フィーリングの良さを発揮させる効果はほとんど期待できません。

不調に対する対策としてファイナルレシオを極端にロング化させている車両も見かけますが、低回転から本来の良さを発揮できていないストレスをごまかすための設定のようですが、頻繁なシフトを繰り返すことはストレスも大きく決して楽しめる状態ではありません。

エンジンコンディションが悪いままにサスペンションなどを変更してもトラクションが十分に掛らない状態ではコーナーリング時にその効果はある程度しか期待できません。乗り心地の変化が若干期待できる程度のことですから、優先順位はまずはエンジンコンディションからが常套です。

これからトライアンフ最後の空冷スクランブラー900を楽しむために

I・Yさんのスクランブラーのオドメーターは11700Kmで走行距離からすると、全体にヤレ感がありましたがそのヤレ感には少し違和感があり、サイドカバーにはなんと当NWJCのシールが貼ってありましたが、NWJCから販売した車両ではない事は各部の仕様が物語っていました。

メンテナンスを開始して、燃料タンクを取り外すためにシートを取り外すと、スピードメーターを交換したことを証明するシールが貼られていて走行距離が37,000Kmを超えていることが判り、そのヤレ感に納得することができましたが、エキパイの焼け色と錆は、随分長い間コンディションが悪いまま走らせていたことを現わしていました。

シールが貼ってあったことから念のためフレームナンバーを確認してみると、10数年前に愛知県から来店されてエンジンの調整をした履歴が残っていました。その後の経緯は分からないのですが、I・Yさんが来店される発端となったエンジンコンディションはとても悪く、エンジンが時々ストールするとのことでした。

バイク屋NWJCが提案する「こんなものです」と言えるエンジンコンディションと、他のバイクショップで告げられた「こんなものです」の違いを実感して頂くためにも、今回のメンテナンスがトライアンフ最後の空冷スクランブラー900の昔ながらの素朴な乗り味で末永く楽しんでいただく為に、I・Yさんにとって有意義なことであれば幸いです。

エンジンコンディションをチェックしてみると、その後どこかで手を入れられたようで当NWJCの仕様とは全く異なる設定となっていました。バルブクリアランスを再度調整して、アイドリングが不安定なキャブレターもメンテナンスを施すと、バランスがとれた270度クランク特有のスクランブラー本来のエンジン音に変わり始めて、徐々に調子を取り戻し始めたことが実感できました。

コンディションを整えた空冷スクランブラー900は、低回転では270度クランクの鼓動感を楽しみ、エンジン回転を上げるとDOHC特有の湧きあがるような力強さで、バイク屋NWJCがスタンダードとして提案する「こんなものです」というエンジンコンディションに整えることができました。

後日エンジンコンディションを整えた空冷スクランブラー900を試乗されて、加速フィーリングやトルク感に安定感など、その乗り味が別物であることを体感されたI・Yさんの満面の笑みは何よりでした。

1台でも多くのトライアンフ最後の空冷モダンクラシックをGoodコンディションで楽しんで頂くために、バイク屋North Wing JCでは、できる限りの応援をしたいと考えています。何なりとお気軽にご相談ください。

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