SL230TMでキャンプツーリングと神話を楽しむ
バイクを楽しめる気候が戻ってきたことは嬉しい限りだが、まもなく冬将軍がやって来る。その前にお気に入りの西日本方面で神話めぐりとキャンプツーリングをいつものメンバーと共に楽しんできた。
日々仕事に追われている村田さんとKさんの二人と日程が合うのは久しぶりのこと。BMW K1600GTに乗るTさんを交えたフラッグシップモデルでのツーリング以来である。
今年の異常気象はツーリングやキャンプを楽しむ機会を奪い、Kさんは春先に一回のみ村田さんは皆無のキャンプも楽しむ事にした。ルートはおっさんライダーお任せとなり、予てより訪ねたいと思っていた神話の地をSL230TMとXR230TMで訪ねることにした。
SL230とXR230は旅バイク(TM)へと深化した
いつものメンバーが所有するSL230やXR230は、遊び感覚でバイクを操る基本を体に刷り込む「トレッキングごっこ」仕様となっている。楽しみながら鍛えられた感性はバイクとの関係をより親密にして、スペックやブランドに惑わされること無く、バイクの魅力や楽しみ方を見出すことに一役買っていたようである。
バイク屋のおっさんライダーは自らが楽しむ為に、扱える車格と使いこなせる排気量のSL230が持つ潜在能力を引き出して、自由気ままに多用途で楽しめる「欲張りなおっさん仕様」へと深化させるために想いをめぐらせて試行錯誤を楽しんでいた。
その経過を観察していた里見君が、転職を機に日本各地を訪ね歩くツーリングに出かける計画には「欲張りなおっさん仕様」が最適であるとして、彼のSL230も同時進行で作業を進めた。出来上がると同時に日本一周ツーリングに出かけて、旅バイクとしての潜在能力は想像以上であることを実感されたようだ。
SL230は小柄な車格と非力な排気量だが、旅バイクとして必須の積載力を高め、エンジンコンディションはもとよりトータルバランスを整えることにより、自由気ままに長旅を楽しめる多用性が実証されたようである。
長年にわたりライダーの五感を鍛えたトレッキング仕様のSLやXR230は、普段使いから長旅まで多用途に楽しめるTM仕様へと深化させて潜在能力を引き出す事で、発売から数十年経つSL・XR230は時の流れに埋もれることなく再び輝きを取り戻したようだ。
メーカー主導の車両販売が主流である台数至上主義はいつの時代も変わりないが、ブランドやスペック、カテゴリー、新製品などに囚われることなく、バイク屋のバイク乗りとしての実体験に基づいた独自の価値観を表現できたと思う次第である。
お気に入りの西へ向う
早朝5時XR230TMを駆るKさんと共にNWJC南店から走り始め、実家の京都から走り始めた村田さんとは、阿吽の呼吸とでも云うのか中国道を走りながら自然に合流。
加西SAでガス補給を済ませたSLとXRは、100Km/h前後の流れの中を坦々としたペースで蒜山ICまで悠々と走る。
蒜山で早めの昼食を済ませて、秋の景色を楽しみ村田さんが淹れてくれたコーヒーを飲みながらSLやXRの積載時の安定感や走りについて雑談をしているとKさんの携帯が突然鳴った。
急な仕事が入りキャンプツーリングを取り止めて引き返すことになったKさん曰く、明日の午後からのことだから帰り道は少し遠回りをしてXR230TMの走りを楽しみ、キャンプはRBRさんの様子を見に行った近場のキャンプ場で近日中に、とのこと。
米子近くまで峠道を抜けて大山が良く見えるポイントからは、其々の道すがら心地よい走りを楽しむ事となり、Kさんは東へ引き返し、我々は更に西へと向かった。
余談であるが、昔ながらの素朴な乗り味を持つ空冷スクランブラーやR100GS/PDを楽しんでいるKさんが、好奇心で所有したアフリカツインCRF1000は、日本の道路事情では「帯に短かしたすきに長し」の違和感を覚えたようで手放すことにしたそうである。
しかし、コンディションを整えた空冷スクランブラーやR100GSなど、昔ながらの素朴な乗り味を持つバイクの感性を刺激する心地よさは格別で決して手放すことは無いとのこと。
やはりバイク屋のおっさんライダーの読みが的中したようであるが、日本の道路事情で「帯に短かし たすきに長し」と思えるバイクに乗り続けることは、言葉にならない違和感を覚えて時間が経つにつれて疎遠になる傾向のようである。
SL230TMは、キャンプ道具を積み込んだ状態でも高速道で直進安定性が損なわれることも無く、ワインディングは軽快に走り抜け、6速の低速走行では単気筒2バルブ特有の粘りでポコポコとでも云うのか、速さより心地よい走りを楽しませてくれて、欲張りなおっさんライダーにとって貴重な存在であることを改めて実感した次第である。
神話の地を巡りながらの帰り道
キャンプ場は貸し切り状態で、風も無く遠くの漁火を眺め、キャンプならではの夕食の準備をそれぞれに楽しみ、食後には村田さんが淹れてくれたコーヒーを飲みながら翌日のルートに関して打ち合わせをしていると、村田さんからの要望で「静の窟」も訪ねることになった。
静の窟は、大国主命と少彦名命が国づくりについて話し合われたところで、二柱の神々は医療に関わりが深く、因幡の白兎神話も神伝の一つである。
精神科医である村田さんから静の窟を訊ねたいと要望されて、日本人としての敬神の念と科学万能が総てではないことを垣間見た思いである。
翌朝からの天気は下り坂とのことだったから、夜も明けぬうちに撤収を終えてキャンプ場を後にして走り始めたが、ポツリポツリと小粒なやつが降りてきた。
日本人のルーツである日本神話の地を訪ねることを長年楽しんでいるが、各地にある日本神話は限られた人々の中で語り継がれるだけになり、日本人のルーツが忘れ去られてしまうように思えてならない。
記紀記載の地の中には世界遺産となり、神話の地というよりも商業施設が立ち並ぶ観光地へと様変わりして昔の面影を失ったところも見受けられるのは残念である。
西日本の神話を訪ねたとき,近くで農作業をされていた年配の方がわざわざ手を止めてその地の神話について語っていただいた事があり、神話が大切にされている西日本の地には親しみを感じている。
今回は、島根県大田市五十猛町R9号沿い近くの海岸に、スサノウノミコトと御子の神々が埴で造った舟に乗り韓の国より海を渡って上陸したとされる神話の地「神島」があり(日本書紀 神代上に記載あり)、その地を訪ね歩くことを楽しんできた。
御子神であらせられるイタケルノ命(五十猛命)と二柱の女神も上陸されて、その後各地に木の種を蒔かれて日本は緑豊かな国となった始まりの地を今回の神話めぐりのスタート地点とした。
スサノウ命と御子の神々が上陸された神島を拝観して、スサノウ命がこの地に留まられた韓神新羅神社へ参拝した。
その後、スサノウ命と三柱の神々が別れたと伝わる神別れ坂を通り、五十猛命が祀られる五十猛神社から大家姫命神社へ向かう道すがらスサノウ命が韓の国では蒔かれなかった松の種をこの地に蒔かれた伝説の地を工事標識の横に「唐松」と彫られた石碑により偶然見つけ立ち寄る。
大家姫命神社の参拝を終えて、抓津姫命が祀られる石見国一宮である物部神社の境外摂社の漢女神社に参拝した。
スサノウ命の御子神にまつわる地を駆け足で大雑把に訪ねたが、またしても時間切れとなり帰路につくことになった。
五十猛命は、応化神ヤマトタケルノミコトとして日本各地を巡られた伝もあり、顕と幽が織りなす日本神話は面白く、そろそろ各地をのんびりと巡る日々を過ごしたいと思う今日この頃である。
記紀をはじめ神話に関する書籍により想像力を膨らませてその地を探し訪ね歩くときも、細いわき道へ入り込みUターンを繰り返すことは頻繁にあるが、気軽に扱えるダウンサイジングしたバイクの機動力は魅力的で気負いは皆無である。
速さより心地よさで自由気ままに楽しめるカブ110NWJCコンプリートやSL230TMの旅バイクとしての使い勝手の良さとカテゴリー等に囚われない多用性は、スペックやブランドよりも価値があると実感する次第である。